マダニという嫌な虫、予防と治療

山の危険

野山で遭遇する最も嫌な虫の1つがマダニではないでしょうか?くっついて離れず、また様々な感染症の原因になります。

マダニはこんな感じの虫です。

      吸血前のマダニ

Myriams-FotosによるPixabayからの画像

       吸血後のマダニ

幼虫では1㎜以下の大きさ、成虫では1㎝程度の大きさになります。

下の写真は秋に自分の下肢についたマダニです。小さい点は幼虫、大きなのが若虫です。(2021年11月に追加しました。)

マダニ秋に卵を産み、冬~春にかけて幼虫、春から夏にかけて若虫、成虫となります。冬~早春にかけては1㎜程度の幼虫が大量に寄生してきます。私も下肢に数百匹も付着され、当初は絶叫していました(今は慣れました)。夏にかけては大きな個体が数匹単位でくっついてきます。

被害は4月~10月に多いといわれています。また私の話で恐縮ですが、2月に雪の中で藪漕ぎした時もダニに付着されびっくりした思い出があります。

マダニの寄生パターン

草木の葉先などで待ち構えており、動物が通って葉に触れた際に乗り移って寄生してきます。登山道などではほとんどいませんが、登山道から数メートルでも藪に入ると待ち構えています。

momijiは一時期かなりの頻度で獣道を歩いたり、藪漕ぎ(道のない草木の中を突き進む)をしていました。ここで得た経験では、ダニは腰から下にくっついてきます。頭などは基本的に付着しません。頭に付着するのは倒木の下をくぐって通った時です。袖口から入って脇に、足首から入って陰部に寄生(吸血しやすい場所を探して上がってくる)してきます。

足首からの侵入、腰部分からの侵入、袖口からの侵入に最も気を付けるとよいと思われます。

マダニは寄生後、幼虫では3日間、若虫で5~7日間、成虫で7~14日間皮膚にくっついて寄生し、その後脱落していきます。

マダニにつかれない為に

一番大事なのは服装です。藪に入るときは長袖、長ズボンで行動しましょう。現在は夏用の冷感スパッツなども発売されており、スパッツと靴下を重ねてしまえば下半身の防御は完璧です(ちょっと暑いですが‥)。

防虫剤の使用もお勧めです。

マダニに有効な防虫剤について

防虫剤でマダニに有効と言われている成分は「ディート」と「イカリジン」です。

「ディート」に関しては皮膚科学会でも有効性が発表されています。momijiも使っていますが、使用しているときの方が明らかにダニに付着される頻度が下がります。塗り直しが少ないせいかもしれませんがゼロにはならないですね)。イカリジンはまだ使ったことがなく実感としてはまだわかりません。ディートと比べ有効な虫の種類が少ないですが、お子さんでも使いやすいものは「イカリジン」になります。

ディートに関しては市販品として多く発売されているのは5~12%の濃度のものです。日本で一番濃いもので、30%ディートが発売されています。濃度は有効持続時間に関係しているとされ、12%で6時間、30%で8時間の有効時間があります。

ディートの注意点は以下の通り

  • 服に付着すると変色する可能性があり、基本は肌につける。(私は服につけています‥)
  • 生後6ヵ月以下の乳児は使用禁止。6ヵ月~2歳は1日1回まで、2歳~12歳は1日3回まで。
  • 30%ディートは12歳以下は使用禁止。

防虫剤を効果的に使ってダニを防除していきましょう~。

ディートの製品、左から30%、10%、持ち運び安いものになります。

イカリジンの製品はこちら

付着したマダニの取り方

マダニの取り方は意外と複雑です。マダニの種類、大きさ、付着してからの時間が関係して取りやすさが変わってしまいます。

マダニの口は軽い返しがついていて抜けにくくなっています。また、刺咬後に口周辺をセメント様物質で固めてしまうため取れなくなってしまうのです。

幼虫の場合は取りやすく、若虫や成虫では取りにくくなります。若虫、成虫は咬着後1~2日では摘除することが可能な場合がありますが、3日以上経過していると基本的には容易に取れません。またフタトチゲマダニは口器が短いので取り出しやすい可能性が高いです(でも種類の判別までは難しいですよね!)。

家庭でも試せる除去方法

ちゃんとと取れているか確認が必要な場合があるので、取れた虫をセロテープなどに挟んで取っておきましょう。病院に行くときに持っていってください。顕微鏡で虫を見ることで、マダニの口が全部とれているかどうか確認することができます。

①なるべく口近辺を持ってピンセットで除去

幼虫で咬着して1日程度ならとれることがあります

②ワセリン法

ワセリンを虫とその周辺にたっぷり盛り付けて30分以上まつ。その後口近辺をピンセットで持って除去します。幼虫や若虫~成虫でも咬着後1日程度であれば除去できる可能性があります。しっかり咬着されており取れないと判断したらあきらめましょう。

③ティックツイスター

ダニの口と皮膚の間に滑り込ませ、回転させて取ります。多くの学会発表でちゃんと取れたと報告があります。成虫で咬着後数日経過していた場合は失敗に終わったとの報告もあります。大きいダニが数日間付着していた場合は難しいかもしれません。

④塩を用いる方法

塩を大量に載せてその上から水で濡らします。5分以上待ってから摘出すると簡単に取れるというものです。これは良い方法を探していた際、ある医院のブログで見つけたものです。自分では経験がありませんが試してみる価値はありそうです。

⑤勝手に取れるまで待つ

マダニは十分吸血すると勝手に取れます。気分が悪いですが、待つのも1つの手です。気持ち悪すぎて私は待てません。(ノ´Д`)

上記で無理なら皮膚科へ行きましょう。くれぐれもとった虫は持って行ってください。

こんなにきれいに取ることにこだわるのは、体の中にダニの口が残ってしまうと異物肉芽腫ができることがあるからです。ダニの口部分を中心にじゅくじゅくした盛り上がりができて治らないのです。こうなったら皮膚科で切除するしかありません。

また虫体をあまりいじるとダニの体液が体へ入り、感染の確率が上がってしまうので避けた方が良いでしょう。

病院での切除

病院での切除の多くは以下の2つの方法です。

①ティックツイスター

上記で書いた通りの方法です。取れた虫を顕微鏡で確認し口がしっかりとれているかどうかを確認します。

②外科的切除

多くの施設で確実な方法として行われます。通常はエピネフリン入りキシロカインで局所麻酔した後メスもしくはデルマパンチという円形のカッターで固着した皮膚と虫を同時に切除し縫合します。1週間程度で抜糸します。

マダニが原因による感染症とその対策

①ライム病(遊走性紅斑)

シュルツェマダニによって出現します。ダニに咬まれたところから環状の紅斑が出現し周辺に拡大していきます。発熱、倦怠感、関節痛も出現します(第1期)。その後完治せず全身に病原体が拡散すると神経根炎や髄膜炎などの神経症状、心疾患、眼症状、関節腫脹などが出現します(第2期)。数か月から数年後には慢性萎縮性肢端皮膚炎、慢性関節炎、慢性脳脊髄炎などの重篤な症状なります(第3期)。

シュルツマダニは北海道及び本州中部の山岳地帯に生息します。本州中部より南では標高1000m以上の山地での感染になります。

シュルツェマダニはこんな感じです。

原因となるのはボレリアと言われるスピロヘータの仲間です。ペニシリン系抗生剤の内服で治療します。

注意すべきはタカサゴキララマダニに咬まれた時には似た紅斑が出現し得ることです。紅斑の直径が5㎝以上で、シュルツェマダニの咬傷が疑われる場合は本症を疑います。実際にはシュルツェマダニかどうかわからないことが多く、抗生剤が処方されることが多いと思います。

②日本紅斑熱

マダニ(特にキチマダニ、フタトチゲマダニ、ヤマアラシチマダニ)咬傷後に発症します。菌を保有している多くはダニの幼虫であると考えられ、近年増加傾向です。リケッチアという菌によって引き起こされます。

マダニの分類はここに詳しく乗っています(結構気持ち悪いですが詳しく調べられています)。私は分類にはちょっと自信がありません。

潜伏期間2~8日後に発熱と発疹、刺し口の痂疲が出現します。症状はツツガムシ病と似ており、以下の通りです。

  • 発熱;40℃程度まで上昇することが多い。
  • 発疹;米粒大~小豆大の不整型の紅斑で体幹より顔面、手掌、足底を含む四肢優位に出現する。(ツツガムシ病では体幹中心に皮疹が出ます)
  • 刺し口;ツツガムシ病よりも小さく数ミリ大の痂疲である。
  • 全身症状;高熱、悪寒戦慄と共に急激に発症。関節痛、筋肉痛、咽頭痛も見られることが多い。胃腸障害も高率に合併する。

採血では、CRP上昇、肝機能悪化がみられます。白血球の増減は一定しません。重症例ではDICとなることがあります。確定診断としてRickttsia japonicaのIgMの上昇もしくはIgGのペア血清で診断します。痂疲からのPCRでも診断できます。いずれも保険適応がないため保健所に依頼することになります。

治療はテトラサイクリン系抗生剤が第1選択になります。重症ではキノロン系抗生剤の併用が良いと報告されていますが、これは十分評価できていないようです。小児の場合はドキシサイクリンが薦められています(副作用が少ない)。ペニシリン及びセフェム系は無効です。

日本紅斑熱はツツガムシ病(別の投稿で掲載予定)と似ていますがツツガムシ病より重症化する確率が高いようです。

このリケッチアの近縁種でエーキリア、アナプラスマという菌での感染もあり、これらもテトラサイクリン系抗生剤で加療されます。

③重症熱性血小板症候群(SFTS)

マダニ咬着後、発熱、胃腸症状、血小板減少、白血球減少などが生じ死亡することもある疾患です。治療法はなく、全身管理のみです。

潜伏期間は6~14日間で、発熱、倦怠感、頭痛などの症状で発症します。刺咬部周辺のリンパ節腫脹を伴うことがあります。嘔吐、下痢、腹痛などを伴うことが多く、血液検査所見では白血球の減少、血小板減少、肝機能障害がみられます。CRPは上昇しないことが多いとされています。

発症後7日頃から臓器不全が出現し、ショック、呼吸促迫症候群、脳症、腎障害、心筋障害、DIC、血球貪食症候群などが出現します。リンパ節は壊死性リンパ節炎の所見となります。

フタトチゲマダニ及びタカサゴキララマダニに咬まれて感染すると考えられています。ブニヤウイルスによる感染で発症します。

ダニより抽出したDNAで20匹中1匹でこのウイルスのDNAが分離できたとの報告もあります。全国でダニがこの確率でウイルスを持っているかどうかは不明ですが、感染はおそらく報告よりも圧倒的に多い頻度で発生しているのではないかと考察されています。少しの体調不良で勝手に治っている人が多く、免疫的に相性の悪い人のみが重症化して発症しているのではないかとのことです(まだ確実な話ではありません)。

またこのウイルスに感染した猫に咬まれて発症したとの報告もあります。

西日本のウイルスが強毒型と考えられており、現在(2021年8月時点)では重症例は西日本のみになります。

④ダニ媒介性脳炎

7~14日の潜伏期間後頭痛、発熱、悪心、精神錯乱、昏睡などが出現します。フラビウイルスで発症します。日本では北海道で数例のみの報告です。汚染したヤギの生乳からも感染するようです。

⑤野兎病

ダニ咬傷やげっ歯類が感染源になります。フシンセラというグラム陰性桿菌によって発症します。正常皮膚からも感染するほど感染力は強いとのことです。

3~7日の潜伏期間で発症し、38℃~40℃の高熱と共に、悪寒・戦慄、頭痛、筋肉痛、関節痛などの感冒様の全身症状が出現し、長期化します。侵入部位の膿瘍や潰瘍が出現し、リンパ節腫脹を伴います。

診断は細菌培養からとなります。

治療はアミノグリコシド系抗生物質の筋肉内投与が有効とされています。

日本では数例の報告があります。

マダニによって引き起こされるアレルギー

マダニに咬まれた後でアレルギーが発症することがあります。

肉、牛肉、カレイの魚卵に対してアレルギーとなり、蕁麻疹が出るようになるのです。この蕁麻疹は摂取後3時間以上経過して発症する(普通は1時間以内)ことが知られています。

ダニの唾液のα-galという物質に対してアレルギーになることが原因です。B型の血液に近い成分であることがわかっており、B型、AB型に人は発症しにくいです(もとから似たものが体の中にあるため)。

アウトドアに行ってもダニにかかわらずに生きていきたいですね。(^_^)V

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