毒蛇に咬まれた時の判断、治療法

山の危険

日本には10種類の陸生毒蛇がいます。沖縄を除けばマムシ(ニホンマムシとツシママムシ)、ヤマカガシの3種類になります。

沖縄など南西諸島にはハブ(ハブ、サキシマハブ、トカラハブ、タイワンハブ、ヒメハブ)、ヒャン、イワサキワモンベニヘビが毒蛇として生息しています。

イワサキワモンベニヘビとヒャンは個体数が少なく、攻撃性もありません。咬まれた事例もありません。大事な毒蛇はマムシ、ヤマカガシ、ハブ(沖縄)ということになります。

マムシの毒と対処

マムシの形態学的特徴

マムシは三角形の頭をしています。毒腺が発達しているためです。まずはこの頭だけでも種類の判別が可能です。模様の特徴としては「丸書いてちょん」と覚えておくとわかりやすいです。

頭がつぶれてしまっているとき(咬まれてからマムシの頭をぼこぼこにして持ってきてくださる患者さんが結構います)などに判断する手助けになります。ただ、色についてはバリエーションがあり全体的に黒っぽくなり、丸書いてちょんがわからない場合もあります。

マムシと似た模様の蛇ではアオダイショウがいます。アオダイショウの子供はマムシの様な模様でマムシに擬態しています。下の写真では丸書いてちょんになっていないのがわかります。

アオダイショウの子供

マムシの大きさは約60㎝程度で、攻撃する範囲は30㎝程です。長さ5㎜程の牙を持っており、咬まれると2本の牙痕が残りますが、時として4本の牙痕となることがあるので注意です。

マムシに咬まれてしまった時

まずは毒を絞りだします。蛇の確認が治療につながるので、可能であれば写真を撮っておいてください。

その後すぐ病院へ受診しましょう。マムシに咬まれてしまった時は個人でできることは少なく、必ず受診が必要です。

咬まれた場所の上方をひもなどで縛る必要はないです。多くの場合力加減がわからず縛りすぎて悪化させてしまうことが多いためです。

また安易な切開や口で毒を吸い出すこともしない方が良いという意見が多いです(治療の所にも記載)。組織の損傷や二次感染のリスクが高くなってしまうためです。毒を出そうと思った場合はポイズンリムーバーなどを使う程度が良いと思われます。

マムシ毒の性質

さてマムシの毒は様々な毒のカクテルになっています。様々なプロテアーゼ、ホスホリパーゼA2、ブラジキニン遊離酵素などです。

局所を破壊する毒(腫れ、痛み)、溶血する毒(出血)、神経毒(多くは眼症状)に大別されます。

また秋のマムシは毒性が高くなるとされています。

咬まれた際の症状経過

まず沖縄以外で蛇に咬まれた際、腫れた場合はマムシと考えてOKです。

多くの場合、「局所腫脹型」を取ります。

まず咬まれると激しい痛みと腫れが出現してきます。マムシに咬まれて30分~60分以内には腫れてくるので、1時間待って腫れてこなければ毒は注入されていない可能性が高くなります。咬まれた場所周辺に皮下出血、水疱が出現してきます。

その後疼痛を伴いながら腫れはどんどん拡大します。半日~1日後に目の異常が現れます。霧視(かすんで見える)、複視(2重に見える)などです。

腫れに関しては1~3日がピークとなり徐々に軽快します。通常は手足を咬まれ、しばしば体幹まで腫れることになります。目の異常は通常2週間以内に消失します(1ヶ月ほどかかった報告もあり)。後遺症を残すことはほぼありません。

重症であれば腫脹が悪化するにつれてめまいや意識混濁、発熱、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、多汗、乏尿、心悸亢進、循環障害からの血圧低下、播種性血管内凝固症候群(DIC)が出現することがあります。毒の直接の作用で急性腎不全となる場合があり、この腎不全がマムシ毒の主な死因になります。

また血小板凝集作用による血小板の減少や、筋組織の破壊により血中のカリウムが上昇することで心停止に至ることがあります。

重症度は以下のGrade分類で示され、治療方針決定の参考にされています。

  • GradeⅠ:咬まれた局所のみの腫脹
  • GradeⅡ:手関節、足関節までの腫脹
  • GradeⅢ:肘関節、膝関節までの腫脹
  • GradeⅣ:1肢全体に及ぶ腫脹
  • GradeⅤ:体幹に至る腫脹、または全身症状を伴う

まれな症状として「血小板減少型」があります。

マムシの毒がちょうど血管内に注入され、全身に拡散した際に出現する症状です。局所の炎症は軽度なものの、全身性に出血が引き起こされ重症化しやすい症状となります。

重症であれば腫脹が悪化するにつれてめまいや意識混濁、発熱、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、多汗、乏尿、心悸亢進、循環障害からの血圧低下、播種性血管内凝固症候群(DIC)が出現することがあります。毒の直接の作用で急性腎不全となる場合があり、この腎不全がマムシ毒の主な死因になります。

以下はやや医療機関向けの内容になります。

検査結果

毒蛇に咬まれた時は一般的な採血のほかに凝固系(PT,APTT,フィブリノーゲン、FDP)、尿潜血、尿ミオグロビン、CPKは採血しておく方が良いとされています。

採血ではCPKとLDHの上昇が特徴になります。軽症では上昇しないので診断には使えません。フィブリノーゲンはあまり低下しません。フィブリノーゲンは後述するヤマカガシ咬傷で低下し、重要なサインとなるので鑑別のために採血しておくとよいです。またAST、ALTなどの肝酵素の上昇もみられます。

受傷早期から上記指標やミオグロビン尿が出現した場合は重症化のサインと考えられています。

マムシ咬傷の治療

実はマムシ咬傷は決まったガイドラインが策定されていません。よく使われる指針は上記重症度分類のGradeⅢ以上であればマムシ血清を使用するというものです。

一般的な治療の流れは以下の通りです。

  1. マムシであることを確定、採血、静脈ルート確保します。必ず入院です。
  2. セファランチン投与。量は決まっていませんが5~10㎎程度の投与が文献的には多く見られます。
  3. ステロイド剤及び広域抗生剤の点滴をします。
  4. 受傷後6時間以内に上記重症度のGradeⅢ以上になればマムシ抗毒素血清を6000単位(1本)使用します。
  5. マムシ血清の使い方は1本を生食200ml(←これが大事)に溶解し、それを一部使用して皮内反応をします。30分程度でチェックし、強い反応が出なければ使用可能と判断します。ステロイド全身投与(メチルプレドニゾロン250ml程度)と抗ヒスタミン剤を投与した後にゆっくりと血清を投与します。蕁麻疹~アナフィラキシーショックのリスクがあるため、少なくとも投与が終わるまでは頻回に患者さんの状態をチェックする必要があります。蕁麻疹の出現があれば投与を中止し、蕁麻疹の追加治療(抗ヒスタミン剤、ステロイド剤の追加)を行います。

ただ標準治療のガイドラインは作られておらず、治療に関して様々な議論があります。意見が分かれているのは①病院到着後に切開するかどうか。②血清を使うべきかどうか、またタイミングはいつか。このあたりの意見で統一がみられていません。

私は①切開は基本行わない。②血清は使うべき、かつGradeⅢになる前に早めに使用すべきという意見の持ち主です。一応今まで30人以上のマムシ咬傷を治療してきました。その上の個人的意見が以下のものです。

①切開するべきかどうかについて。

病院到着までに通常数十分以上は経過していることが多く、切開で有効なほど毒が排出できるとは考えにくいのではないか?また切開による組織の挫滅も気になります。咬まれてすぐ受診された場合は切開の適応かもしれません。論文では切開してよかったとの報告もあります。ハブ(大量の毒を注入)では咬まれた後40分以内であれば切開が有効との報告もあります。

②血清の使用について。

個人的な経験からですが、軽症と判断し血清を使わずにいた患者さんの方が結局重症化し、後から後悔しつつ血清を使うことになったり(血清の使用は早い方がよく効きます。なるべく24時間以内に使用したほうが良いとされています)入院が長期化してしまうことが多いのです。重症と判断し、血清を使うとほとんどの場合、翌日には痛みがかなりなくなり、通常1週間程度で退院できます。また血清使用後の副作用である血清病で重症なったという論文はなく、いずれも軽症であっと報告されているためです。

しかし血清の使用は欠点が3つあります。①2回目はアレルギーが起きやすく使えない。②アナフィラキシーショックが起こる可能性がある。③血清病のリスクがある。

血清病とは遅発性のアレルギー反応になります。投与後数日から3週間程度で出現します。関節炎、腎炎、皮膚の紅斑、蕁麻疹、発熱などが出現します。これらは通常ステロイド投与や抗ヒスタミン剤により3-4日で軽快することが多いとされています。

血清使用反対派の友人に言わせると、全身管理さえしっかりできれば絶対助かるので余計なリスクは取らない方が良いとのことです(ちょっと喧嘩になりかけました)。

全身管理に自信がない私と全身管理に自信がある友人との差なのでしょうね。この辺りはどんな病院で誰が治療するかで方針が決まってくるのだと思います。

参考になれば幸いです。

さて腫れが超高度である場合減張切開が行われます。コンパートメント症候群(筋区画の高度腫脹)などで末梢に血流がなくなってしまう場合には肢切断に至ってしまうことがあるためです。

コンパートメント症候群は①疼痛、②知覚鈍麻、③運動麻痺、④脈拍触知不良のがあった際に疑われます。爪を押すと白くなりますがそれがピンク色に戻らなければ血流が阻害されているとして減張切開を考えましょう

ヤマカガシの毒と対処

ヤマカガシの形態学的特徴

ヤマカガシは大きいと150cm程度にまで成長します。

マムシやハブのように頭が三角形ではありません。あまり毒蛇に見えません。赤や黄色の模様が特徴です。

しかし、ヤマカガシは色のバリエーションがとても多く色では判別できないことがあります。黒っぽいバリエーションが以下の写真です。

咬まれてしまった時

普通はヤマカガシは咬みません。しつこくちょっかいを出していたりするとどうしようもなくなって咬んできます。積極的に咬んでくるのはマムシです。

なにか蛇に咬まれた時、咬んでいた時間が長かったかどうか覚えておくとよいです。ヤマカガシは歯肉から分泌された毒を牙の創に刷り込むようにし毒を入れます。このため、長時間咬まれていた場合はヤマカガシが想像され、かつ重症になります。

写真を撮っておき、蛇の判別ができるとベストです。

咬まれた痕は無毒の蛇のように牙の痕が目立ちません。1-2列もしくは4列の細かい牙痕になります。ヤマカガシの毒牙はやや奥の方にあります。

ヤマカガシ毒の性質

ヤマカガシは2種類の毒を持っています。咬まれた時の毒と首より分泌される毒です。

①咬まれた時の毒はマムシと違いシンプルです。血液中のプロトロンビンの活性化(血液凝固作用)が主な作用です。血管内に微小な凝固を発生させることで凝固因子を消費させ、逆に出血が止まらなくしてしまいます

②首より分泌される毒は、餌として食べたヒキガエルの毒成分(ブフォトキシン)を貯蔵したものであることが分かっています。目に入ると危険です。

咬まれた時の症状経過

①咬まれた場合

咬まれてから30分程度で頭痛、悪心、嘔吐、胸部苦悶などが出現することがあります。その場合は重症です。数時間~1日後に歯肉や創口、注射痕などから出血がみられるようになり、止まらなくなります。重症では1日で 播種性血管内凝固症候群(DIC) となり、致命的です。腫れや痛みはほどんど出ないのが特徴です。

放置されると全身の皮下出血、血痰、血尿、血便など至る所からの出血症状が出現します。

②頸腺からの毒が目に入った場

目がしみたり、疼痛などの刺激症状、結膜浮腫、充血、視力障害、角膜びらん、同行反応の遅延、虹彩炎などが起こります。

角膜後面の線状混濁が特徴と言われています。

採血結果

採血ではフィブリノーゲンの低下が特徴となります。100㎎/dl以下に低下した場合は要注意。血清が必要になります

マムシの所での採血を一通り行い、凝固系の異常をしっかりチェックします。マムシではフィブリノーゲンが低下しなのでCPK、LDHが症状した場合マムシ、フィブリノーゲンが低下した場合はヤマカガシを想定します。

血小板が遅れて低下します。また線溶系が亢進します。腎不全のチェックが必要です。

DICのスコアに注目していきます。

ヤマカガシ咬傷の治療

治療は 播種性血管内凝固症候群(DIC) の加療を行うことになります。ヤマカガシの毒に対する血清はDICが発症してからでも有効と言われています。

血清は通常病院に常備されていません。ジャパンスネークセンターに連絡して送ってもらう必要があります。

急性腎不全の場合は血液透析を検討します。

頸腺からの毒が目に入ったときは、眼科を受診してください。

ハブの毒と対処

こちらは個人的に経験がなく、沖縄のドクターが専門家になりますのであまり詳しく書けません。文献的な知識になります。

ハブは日本では沖縄、南西諸島にしかいない毒蛇です。

形態学的特徴

沖縄で三角形の「頭の蛇に咬まれた場合はハブと考えてよさそうです。(イワサキワモンベニヘビとヒャンは頭が三角形ではありません。またともに横縞があります。)

大きいと240㎝程度まで成長します。

白~黄色地に黒く細かい網目模様があります。体色、斑紋には個体差があります。

ホンハブ、サキシマハブ、トカラハブ、タイワンハブ、ヒメハブ の種類があり、タイワンハブとホンハブは攻撃性が強く症状も重くなります。

咬まれてしまった時

まずは頭が三角形であったかどうかを確認します。沖縄で頭が三角形の蛇であればハブと考えてよいと思います。

ハブの咬傷は多くの場合で2本の傷跡が残ります。場合によっては1本や4本の痕になる場合もあるので傷を確認しましょう。

誰かに助けを求め、病院へ向かいましょう。誰かに車で送ってもらうのがベストです。

マムシ同様にポイズンリムーバーなどがあれば毒の吸引を試みます。

ハブ毒の性質

ハブの毒はマムシと同様に様々な性質の毒がカクテルになっています。

局所を破壊する毒(腫れ、痛み)、溶血する毒(出血)に大別されます。神経毒はないとされています。

マムシと比べて毒力は低いですが、大量(マムシの10倍)の毒を注入してくるため、重症になります。

咬まれた時の症状経過

咬まれて数分で腫れてきて、焼けるような痛みが出てきます。その後腫れは周辺に拡大し、皮下出血が出てきます。

重症化することが多く、腹痛、嘔吐、下痢、血圧低下、意識障害などが出現します。重症であれば急性腎不全や 播種性血管内凝固症候群(DIC) となり死亡する可能性もあります。

採血結果

マムシ同様の採血を行います。CPKの上昇及び尿中ミオグロビンを測定し、これらが高値であれば重症と判断します。

ハブ咬傷の治療

なかなか文献が見つからないのですが、マムシと違う点は基本的に血清を使うことが中心になるようです。また咬まれた際40分以内であれば切開して毒を排出させることが有効との報告があります。

血清は早期に使用します。マムシ同様に馬で作られた血清であり、おそらくはマムシと同じ投与の段階を踏めばよいのではないかと推察します(すみません、細かいところの知識が十分でありません)。

血清使用後30分から45分経過しても腫脹がひどくなり続けている場合は追加で血清を使用することが考慮されます。

ハブ血清も血清病のリスクがあります。投与後多くは10~14日後に発熱、皮疹、関節痛、全身倦怠感、頭痛などが出現します。頻度、重症度は調べてもわかりませんでした。マムシと比べ投与量が多くなると考えられるため、血清病もやや重症になるのではないかと推察します。

最後まで読んでいただきありがとうございます。毒蛇に気を付けて遊びに行きましょう~σ(^_^)

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