昔から「知りたい」と思って調べ切れていなかった事の一つが汽水での寄生虫感染です。
海、川の寄生虫は色々情報があります。しかし汽水の文献というのはほとんど存在していません。
医学の文献、教科書、ネットの報告、など調べまくって一応このようなものではないかと推定されるものをここに記載します。
ここで、「汽水の魚」は通常海水魚としての扱いだけど河口でも釣れる魚を想定します。要するに河口付近で釣った海水魚は刺身で食ってもよいのか?という事です。(河口付近に来る淡水魚は淡水魚とみなします)
サナダムシを中心とした考察です。
日本海裂頭条虫(サナダムシ)
このコーナーは私(momiji)が文献などから行った推測で形成されています。完全には信用できませんのでご注意ください。
日本海裂頭条虫は終宿主である哺乳類(一部鳥類)の便から卵が排出され、ケンミジンコ→魚類を中間宿主とし、食物連鎖で寄生してきます。
医学の文献では鮭、マスの生食で感染と書かれています。実際に鮭やマスでは、サナダムシがプロセルコイドとして、背ビレや油ビレ周辺の筋肉内に存在しているのが確認されています。
しかし、幼魚の時にケンミジンコを食べる魚は多数いるはずです。鮭、マス以外に中間宿主になりうる魚がいないのか気になります。日本海裂頭条虫 は感染しても基本的に症状がないため、原因が推定されているだけであり、報告に上がっていないだけかもしれません。
淡水の小魚を介した感染の可能性に言及している文献もあります。
理屈では汽水の魚でも感染源となることはありそうです。
医学論文から
日本の医学の文献では、鮭、マス以外から感染したとされる報告は見つかりませんでした。汽水、ハゼ、クロダイ、チヌ、カレイ、スズキ、ソイ、ボラ、コチ、アジ、メッキ、シラウオ、シロウオ(素魚)と思いつく汽水魚をすべて入力して調べてみた結果「報告0」でした。
ネット検索から
ネットでは「サナダムシいた」という報告がありました。スズキ、ソイ、ハゼで写真とYouTubeがありました。 日本海裂頭条虫 でしょうか?(確証ナシ、条虫であることは間違いなさそうです)。スズキの報告はこちら。クロソイの報告はこちら。ハゼの報告はこちら。
しかし、すべて内臓からの検出です。本来第2中間宿主である魚類にはプロセルコイドとして背ビレ付近の筋肉内に寄生しているはずです。
想像ですが、スズキ、ソイ、ハゼとも肉食の魚であり第2中間宿主となっていた淡水魚を捕食して感染してしまい、中途半端な終宿主になっていたのではないでしょうか?
韓国で「ボラ」にいたとする報告があるようですが文献の信ぴょう性が不明でした。
汽水魚の食性からの推察
日本海裂頭条虫の第1中間宿主はケンミジンコです。ケンミジンコは基本的に淡水のプランクトンですが、汽水には汽水ヒゲナガミジンコというケンミジンコの仲間が存在します。このケンミジンコが第1中間宿主になるかどうかは調べてもわかりませんでした。まだ世の中わからないことだらけですね(機会があれば自分で調査したいものです)。
汽水のケンミジンコを幼魚の頃に捕食する可能性がある魚を考えてみます。
①スズキ
産卵となる海域の特徴は、外海に面した沿岸の岩礁帯で、凸凹のある水深50~80m位の水域が選ばれているとされており、幼魚の頃を海水で過ごすようです。このためケンミジンコを捕食する機会は無さそうです。外国の文献では、淡水のパーチがTape worm(サナダムシ)の原因になるとされる報告があります(日本とは種類や条件が違いますが‥)。
②マハゼ
水深2~7 mの泥底または砂泥底に産卵します。 内湾や汽水域の泥底や砂泥底で行われるようです。汽水域で幼魚の時期を過ごすのでケンミジンコを捕食する可能性があります。中間宿主にされそうです。外国の論文ではハゼ科の魚がTape worm(サナダムシ)の原因になったという論文が1本見つかりました(こちらも日本とは条件が違いますが‥)。
③マゴチ
海岸近くの浅場所で産卵し、1㎝程度の大きさで汽水域に入ります。ケンミジンコを食べそうですね。中間宿主になりそうです。
④ソイ
沿岸で産卵し、稚魚は河口に集まっているようです。中間宿主になりそうです。
⑤シラウオ、シロウオ(素魚)
シラウオはキュウリ魚科の魚です。
シロウオはハゼの仲間でシラウオとは全く違う魚です。
シラウオ、シロウオ共に成魚自体が小さく、汽水域で活動しますので、中間宿主になりそうな気がします。しかし、魚自体が小さすぎてプロセルコイドに成長できるのかどうか微妙ですね。
⑥クロダイ
産卵は浅い砂地のある入江、湾内外の磯場で行われるとのこと。幼魚がケンミジンコを食べることは無さそうです。
⑦ボラ
南方の海域が産卵場所だと考えられています。 これも大丈夫そうです。
⑧アジ
海の広い海域で産卵し、幼魚は藻などに身を隠しながらプランクチンを食べます。汽水にも一応入ってはきますがほぼ海水での生育です。大丈夫そうです。
⑨メッキ(ギンガメアジ、ロウニンアジなど)
海中に卵を放出します。ケンミジンコを食べることは無さそうですが、大きくなってきた際に汽水域にも侵入してきます。スズキやソイのように中間宿主となった小魚を捕食するかもしれませんね。
⑩カレイ
沿岸の浅場で砂地に産卵します。稚魚、幼魚を汽水域で見ることはあまりなく、汽水に入ってくることもあるといった程度なので大丈夫ではないでしょうか?
結論
スズキ、ソイ、マゴチ、マハゼ、シラウオ、シロウオは生食のリスクありと考えました。
しっかりしたデータが揃えば更新していきます。また、知見をお持ちの方がおられればご教示いただければ幸いです。
私(momiji)はハゼの生食はしないこととします。マゴチが釣れたら刺し身で食べたいのだけどどうしようかな~。どちらも大好きな魚です。
クドアの仲間
クドアについては「海の魚介類から感染する寄生虫」で解説しています。
基本的に一過性の下痢を引き起こすのみで人体に永住はしない寄生虫ですので幾分気分が楽です。
汽水魚では、スズキ、クロダイ、マゴチでKudoa Iwataiによる感染の報告があります。報告数は少なく、あまり気にしなくてよさそうです。
クドア類は75℃以上5分での加熱かマイナス20℃4時間以上での冷凍処理で死滅します。
吸虫類
異形吸虫 (H.heterophyes)
ハゼ、ボラ、メナダ、の生食で異形吸虫(H.heterophyes)に感染することがあります。
ゴマ粒ほどの大きさの寄生虫です。
糞便から排出された虫卵は巻貝に取り込まれて成長します。巻貝から遊出したのち、汽水魚に感染します。感染した魚の生食で感染します。
人体では腸管に寄生します。
少数寄生では症状がでません。多数寄生によ り腹痛、下痢になります。まれに産み出された虫卵がリ ンパ流、血流にのり臓器に入って栓塞を起こす場合もあります。特に心筋や心臓弁膜が栓塞した場合は、心臓の異常を引き起こすこともあります。
虫卵検査で診断します。
治療はプラジカンテル1日25㎎/Kg/日を1日3回で内服し、1~2日間継続します。
横川吸虫(M.yokogawai)
ウグイから横川吸虫(M.yokogawai)に感染する可能性があります。
横川吸虫は日本全域に生息する寄生虫です。ゴマ粒ほどの大きさです。
虫卵はカワニナ(←巻貝)に取り込まれて幼虫のセルカリアとなります。そこで一定の成長をした後にカワニナから出ていき、淡水魚のうろこの間から侵入します。侵入された淡水魚が第2中間宿主となります。それを食べた生物が終宿主となります。人も終宿主となります。
人の中では小腸の壁に吸着します。
鮎、シラウオ、シロウオ(素魚)、ウグイ、鯉、鮒などの多くの淡水魚の生食で感染するとされています。
症状は軽症で無症状~軽度の下痢などです。まれに大量に寄生された場合、小腸炎をおこし下痢や粘血便、腹痛、体重減少をきたすことがあります。
虫卵検査で卵を確認します。
治療はプラジカンテル1日30~50㎎/Kg/日を1日3回で内服し、1~2日間継続します。
顎口虫類
シラウオの生食から日本顎口虫に感染したとの報告があります。
皮膚爬行症 (creeping disease)として発症します。
皮膚に線状の紅斑が出現、寄生虫の移動に伴って移動します。
この皮膚爬行症(creeping disease)は、皮疹が出ているところを切って取り除いても治療完了できないことが多いようです。寄生虫の体に反応して皮疹が出てくるころには、寄生虫そのものはさらに進んだところに 移動してしまっているためです。
物理的な除去は広範囲に切除をするか進行方向を狙って切除するのが良いとされています。
現在の治療は「イベルメクチン」の内服が多く行われています。0.2㎎/Kgの内服を2週間の間隔で2回の内服が一般的です。
全体的なmomijiの結論
汽水魚は淡水魚と同等に扱い、特別な理由がなければ刺し身では食べない方がよさそうです。
考える猫。「マゴチを刺し身で食べるかどうか」それが問題だ!
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