海での重症細菌感染症

海の危険

ビブリオって聞いたことありませんか?そのなかに感染すると重症化しやすい菌がいます。

ビブリオ・バル二フィカス(Vibrio vulnificus)という種類です。

食中毒の原因となる腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolytics)の親戚です。

ビブリオ・バルニフィカスは海水温が上昇し、18℃以上になると増えやすくなり、20℃以上で急速に繁殖します。

海底付近に生きている魚、プランクトン、貝、カニなどに付着しています。完全な海水よりも汽水を好んで生育します。

日本での感染は6~11月で、特に7月~9月に集中しています。中高年の男性に多く発症し、男女比(7:1)です。免疫が正常な人には感染しにくいのですが、肝機能の悪い方や免疫低下の方、鉄剤内服中の方に感染しやすく、要注意です。

感染経路は2つ。

  • 魚介類の経口摂取から消化管を介して感染するもの(約90%)
  • 皮膚の傷を介して感染するもの(約10%)

消化管から感染する場合

加熱していない魚介類に付着しています。腸から門脈(腸から肝臓に栄養を届ける血管)に入り、肝臓の免疫バリアが負けると全身に感染します。

①リスクの少ない人の場合、胃腸型となることが多いです。

健康な人は肝臓のバリアで菌を止められるため、発症なし、もしくは腸炎で終わります。

魚介類の生食後、激しい腹痛と下痢が出現します。つらいですが、勝手に治ります。

②リスクが高い人の場合、原発性敗血症型になります。

肝臓に病気のある方、(貧血などで)鉄剤内服中の方、糖尿病やステロイド内服中など免疫低下の方、ヘモクロマトーシスの方でリスクが高いとされています。

魚介類経口摂取後48時間以内に全身に菌が回ってしまう「敗血症」となります。突然の全身状態悪化で発症します。壊死性筋膜炎(筋肉の膜にも菌が繁殖し重症となる)含めた全身の臓器で感染が併発し、多臓器不全で70%程度の致死率となってしまいます。

(壊死性筋膜炎は下肢に多く出現し、通常の赤くはれる状態のみではなく、斑状の出血、水疱、皮膚の壊死を伴う汚わいな見かけになります。)

皮膚の創から感染する場合

約10%が皮膚からの感染になります。

海での怪我、岩や貝などでの創から感染します。また生魚などを調理する際に手に傷があると感染することがあります。

傷周辺の腫脹で終わればよいですが進行すると既出の壊死性筋膜炎に進展します。斑状の出血や水疱が出現し、治療開始が遅れると筋肉周辺まで感染が拡大し、「壊死性筋膜炎」となります。この様に深部まで感染が広がったと考えられる場合は皮膚を切開し内部を洗浄していく処置が必要になってしまいます。

予防

  • 海水、特に汽水で怪我をしないように気を付けましょう。また、怪我をした際は早めにしっかり洗いましょう。
  • 魚を捌く際に内臓を破らないように注意し、しっかり加熱して食べましょう。病院では、ハイリスクな患者さんが多いため、夏の病院食に生魚は極力出さないように注意です。
  • 魚を捌いた後の調理器具は真水でしっかり洗浄しましょう。

検査と診断

肝機能の悪い男性が突然全身状態の悪化と下肢を中心とした重症の炎症で受診した場合、数日以内の生魚摂取や汽水での怪我がなかったか聴取します。歴があればビブリオ・バルニフィカス感染を考慮します。

皮膚炎がある周辺に出血斑(紫斑)や水疱が出現してきている場合は要注意です。傷周辺の皮膚が汚い印象であれば試験切開(局所麻酔で切開して内部を確認する)も考えます。

一般的な検査のほかに傷、水疱、壊死組織、血液、便からの細菌培養を行います。48時間あれば菌が同定できます。血液からのPCRも有用です。

抗生剤投与が遅れると治療が間に合わない(発症後72時間経過していた場合生存率0%)ために検査を行いながら加療を開始します。

治療

ビブリオ・バルニフィカス感染を疑った場合、大量の抗生剤で治療を行います。

①カルバペネム系抗生剤を最大限に投与しつつ、テトラサイクリン系抗生剤を併用する。

②第3世代セフェム系抗生剤を最大限に投与しつつ、ニューキノロン系抗生剤を併用する。

上記の2パターンが提案されています。

抗生剤の大量投与と同時にやばくなった皮膚部分を切開し、内部の感染巣を洗浄します。

シイラとビブリオ

シイラの体表面の粘液はビブリオ菌が付着していることがあります。

付着するビブリオは腸炎ビブリオが多いようです。報告では腸炎ビブリオしかなく、ビブリオ・バルニフィカスの報告はありませんでした。底魚ではないからでしょうか?(エイの棘で刺された後ビブリオ・バルニフィカス感染になった事例は報告されています)。

シイラが釣れた際は他の魚と別で保存したり、保冷をしっかりと行います。調理の際は表面のぬめりをしつこくこすり取ってから調理し、調理器具は十分洗いましょう。

ヘタッピ釣り師のmomijiはまずシイラを釣ったことがありません。シイラを釣るところからですね!

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