海の魚は刺身で食べますが、川魚はほとんど刺身では食べませんよね!それは寄生虫につかれないためです。
海の魚につく寄生虫の多くは、人体に一旦寄生したとしても長期生存できず、いずれ脱落するものがほとんどです。塩分濃度が関係していると考えられています。
ところが、淡水産の寄生虫は人体に感染できてしまうものが多いのです。
対策は簡単で「しっかり加熱して食べましょう」ということにつきます。また、-20℃以下で24時間以上(しっかり凍ってから)経過すれば安全と言われています。冷凍についての安全性は文献的には十分確認できませんでした。
さて、現代の日本でも時折見られている寄生虫症は日本海裂頭条虫、いわゆるサナダムシです。実は私(momiji)はこいつに寄生されたことがあります。このサナダムシ中心にいろいろな寄生虫を紹介していきます。
日本海裂頭条虫(サナダムシ)
数メートルにもなる巨大な寄生虫です。
これが私(momiji)から出てきた日本海裂頭条虫です。伸ばすと約4メートルありました。細く、平べったい寄生虫です。
日本海裂頭条虫とは
最大10mほどになる寄生虫で人を含めた哺乳類、鳥類が終宿主になります。小腸に寄生し、宿主が摂取した食物を横取りして生きています。以前は広節裂頭条虫と言われていましたが別種ということがわかり、日本海裂頭条虫と改名されました。
日本海裂頭条虫は毎日10万個の卵を産みます。卵は淡水中で孵化しコランジウムとなります。コランジウムはケンミジンコ(第1中間宿主)に捕食されプロセルコイドに成長します。さらにケンミジンコを捕食した魚類(第2中間宿主)に寄生し、プレロセルコイドとなります。プロセルコイドの寄生した魚をを食べると寄生されてしまいます。
感染された際の症状は通常特にありません。
感染経路
中間宿主としての魚はサケ、マスが多いようです。サケは幼少時は川で成長するためケンミジンコを捕食していますので中間宿主になるのです。 サケ、マス以外でもケンミジンコを食べる魚はすべて中間宿主になりえると考えるべきです。細かく言えば淡水域で生息する魚は すべて中間宿主になりますので、生食は避けた方が良いでしょう。
予防
淡水魚(不安であれば汽水も)は生食を避け火を通して食べるようにしましょう。どうしても生食したい場合は-20℃以下で24時間以上凍結させてから食べることが推奨されています。
強い酒や強い香辛料と一緒に食すると感染しにくくなるそうです。完全に予防できるわけではありませんが‥
治療
感染されてしまった場合は上部消化管内視鏡で十二指腸まで管を入れ、消化管造影剤であるガストログラフィンを十二指腸に注入すると虫が造影されながら大腸に流れていくのが見えます。そのまま便として排泄されます。ガストログラフィンは浸透圧が高く、脱水でしんどくなるのでルート(点滴)確保下で行った方がよいかもしれません。
駆虫後、念のためプラジカンテル10㎎/Kgを1回内服し、生存しているかもしれない?寄生虫を殺します。
その後虫卵検査で便の中に虫の卵がないかチェックして治療終了です。
momijiの日本海裂頭条虫感染日記
ある水曜日だったと思います。少し時間があった、私(momiji)はもよおしたため、病院のトイレで大きい方をいたしておりました。
お尻を洗い、拭こうと思うとお尻からなにか垂れ下がっていますよ。「ん?植物の繊維とかかな?」しかし再度いきんでもそれ以上出ませんし、洗っても取れません。困ったな。
「ええい、ままよ」とトイレットペーパーでつかんで引っ張るとどんどん出てきます。見てびっくり「これが噂のサナダムシか!⤵」「なんで俺!?(T_T)」。なんとか頑張って1mと少し出しましたがそれ以上でなくなって切れてしまいました。
最悪の気分で消化器内科部長に電話します「momijiです。いまう○こしていたらサナダムシが出てきまして、治療とかどうしたらよいですか?」。Y先生は「1年に1~2例ありますよ(そこの病院は日本海裂頭条虫の症例が多い地域の様です)内視鏡で治療できるので来週の水曜日どうですか」。momiji「お願いします」。
お家に帰っても何も症状なくなんか「夢だったのでは?」などと考えておりました。待っている1週間のながいこと‥
治療当日、「苦しい‥」と言いつつ内視鏡を十二指腸へ。ガストログラフィン注入開始。しばらく待つと、「あ、いた!!」やつは「あーれー」ってな感じで造影剤と共に大腸へ流れていきます。
しんどくなって冷や汗が出てきました。ガストログラフィンは浸透圧がたかく、体内の水を引き付けるため、脱水になるようです。点滴して水分補充してもらいました。
待っていると「ボンッ」産まれました。4mの大きな子(寄生虫)です。残念、ギネスならず。ギネスは10m位だそうです。私がちぎってしまったところからすでに50cm以上復活していました。すげえ!
そこで撮影したのが最上部の写真です。
翌日ビルトリシド(プラジカンテル)1錠を内服しました。説明書には脳内に寄生している寄生虫が死ぬと異物反応で脳炎が起こり意識障害や痙攣が起きます。と書いてあります。「怖い!」内服しても何も起こりませんでした。よかったよかった。
寄生虫駆除前後で色々自分で実験してみました。体重、採血データ、鼻炎の症状、などなどです。半年ほどデータを取ってみました(半年で面倒くさくなってやめました)。結果、体重→不変、食欲→不変、鼻炎の症状→不変、白血球→不変、好酸球(アレルギーの細胞)→不変、IgE(アレルギーをおこす抗体の総量)→不変、抗寄生虫抗体→不変。全く何も変わりませんでした。
変わったのは時々あった突然の腹痛がなくなったこと。紅茶よりコーヒーが好きになったことくらい(これは偶然か?)です。
私だけのデータですが、日本海裂頭条虫に関してはアレルギーの治療にもならないし、体重も全く減らないと思われました。
治療中は何かぞわぞわした1週間でした。終り。(+_+)
川魚の他の寄生虫は他に以下のようなものがあります。近年の論文では寄生されて駆除したとの論文は見つかりませんでした。感染事例はかなり少ないのではないかと推察します。余り怖がりすぎないで下さいね。火を通して食べることと手洗いで防げますので‥
顎口虫
有棘顎口虫、日本顎口虫 、ドロレス顎口虫 、剛棘顎口虫があります。
1.5~3㎝程度の線虫です。
ケンミジンコ(第1中間宿主)→淡水魚(第2中間宿主)→哺乳動物(終宿主)で感染します。人は終宿主ではありません。人に感染する場合成虫になれず、体内を安住の地を求めてさまよいます。
ドジョウ、ライギョ、ブラックバス、カエル、ヘビなどの生食で感染します。
症状
皮膚の下を這う場合、移動するみみずばれ(蕁麻疹ではない)や瘤ができます。時に眼球に入って失明したり、脳に入って脳炎になってしまうこともあります。成虫になれないのでいずれは消えますが、人体の中では数年~十数生存します。
検査、治療
末梢血好酸球の増加、IgE増加、抗寄生虫抗体陽性になることが多いとされています。
体に出現したみみずばれのすぐ下にはいないことが多く、みみずばれの進行方向の正常皮膚を含めて摘出し虫の存在を確認します。
補足
有棘顎口虫は、以前はライギョのなかに多数見られていたが、徐々に数を減らしているとのことです。
横川吸虫
日本全域に生息する寄生虫です。ゴマ粒ほどの大きさです。
虫卵はカワニナ(←巻貝)に取り込まれて幼虫のセルカリアとなります。そこで一定の成長をした後にカワニナから出ていき、淡水魚のうろこの間から侵入します。侵入された淡水魚が第2中間宿主となります。それを食べた生物が終宿主となります。人も終宿主となります。
人の中では小腸の壁に吸着します。
鮎、シラウオ、ウグイ、鯉、鮒などの生食で感染するとされています。生食をしないことで予防をしましょう。
症状
軽症で無症状~軽度の下痢などです。まれに大量に寄生された場合、小腸炎をおこし下痢や粘血便、腹痛、体重減少をきたすことがあります。
検査
虫卵検査で卵を確認します。
治療
プラジカンテル1日30~50㎎/Kg/日を1日3回で内服し、1~2日間継続します。
肝吸虫(肝臓ジストマ)
柳の葉の様な形で1~2㎝の大きさをしています。衛生環境の悪いところに生息しており、近年は環境の改善でほとんど発生しなくなっています。
人の体内から排泄された虫卵は第1中間宿主のマメタニシに取り込まれ、発育しセルカリアとなります。セルカリアはマメタニシから遊出し、第2宿主であるコイ科の魚に侵入し、筋肉内に取りつきメタセルカリアとなります。それを食べて感染します。人は終宿主となります。
人の体内では、十二指腸から胆管をさかのぼって総胆管や胆のうに寄生します。
コイ科の魚を生食することで感染します。従来はコイの洗いで感染していました。生食をしないようにして予防をしましょう。
症状
少数の感染ではほとんど症状はありませんが、慢性的に炎症が起こることで胆管癌のは発症があり得ます。また多数の感染があると胆汁うっ滞と右腹部の疼痛が出現することがあります。
検査
検便で虫卵を検出します。腹部の超音波検査で虫体が確認できることもあります。
治療
プラジカンテルを1日50~75㎎/Kg/日で1日3回、3日間の内服を行います。
ウェステルマン肺吸虫(肺ジストマ)
日本では北海道を除く全土に生息しています。近年は減少しているとのこと。体調は1.2㎝程度です。有性生殖する2倍体と単為生殖する3倍体が存在します。日本のものはほとんどが3倍体です。
肺に寄生しており、卵は喀痰と共に排出されます。雨などで川に入った虫卵は第1中間宿主であるカワニナに入りセルカリアとなります。育つと遊出し、第2中間宿主であるザリガニ、サワガニ、モクズガニに侵入し、メタセルカリアとなります。メタセルカリアが感染している甲殻類を生食することで感染します。人は終宿主となります。
人の体内では小腸の壁を突き破り体内を移動します。肺にたどり着き、定着し成虫となります。時に皮下に迷入し腫瘤を形成したり、脳に侵入してしまうこともあります。
淡水の甲殻類およびイノシシ肉の生食で感染するため、しっかり加熱することが大切です。またザリガニなどを触ったときはちゃんと手を洗うようにしましょう。
症状
血痰、胸痛、胸水などが出現します。脳に寄生した場合は中枢神経障害、皮膚に侵入した場合は移動性の腫瘤を形成します。
検査
喀痰や糞便中の虫卵の検出で確定診断をします。
胸部のX線やCTなどの画像検査で異常陰影があることがあります。
抗寄生虫抗体の上昇、好酸球増多、IgE上昇などがみられます。
治療
プラジカンテル1日75㎎/Kg/日を1日3回、3日間内服します。
宮崎肺吸虫
北海道以外の日本全土に生息します。ウェステルマン肺吸虫に似るが、やや細い形をしています。
イタチ、イノシシ、犬、猫、テンなどの哺乳動物から虫卵が排出されます。その後虫卵はミジンニナ(←巻貝)にに取り込まれ、ミジンニナがサワガニに食べられるとサワガニの中でメタセルカリアに成長します。このサワガニを食べることで感染します。人は終宿主にはなりません。
サワガニの生食で感染するため生食をしないように、またサワガニを触ったのちには手を洗うようにして予防しましょう。
症状
人は終宿主にならないため、定住できる場所を求め、体をさまよいます。肺にたどり着きますが、そこで炎症が起こるため肺に炎症が起こります。
体内を移動中は移動性の腫瘤などが出現し、肺にたどりつたのちは胸痛、気胸、胸水貯留などが起こります。
検査
成虫にならないため、虫卵で検査ができません。胸部の画像検索での異常、採血でのIgE、好酸球増多、抗寄生虫抗体の増加などで推測します。
移動中の皮膚腫瘤の摘出ができれば確定診断できます。
治療
プラジカンテル1日75㎎/Kg/日を1日3回、3日間内服します。
日本住血吸虫(おまけ掲載)
日本では1976年以降確認されていません。
魚の生食ではなく川などに素足で入ると皮膚から感染するやばいやつです。全身の症状も出現します。
流行地域の中間宿主(ミヤイリガイ)を撲滅することで感染がコントロールされました。全国にはまだ中間宿主となる貝が存在します。また中国の揚子江流域では流行しています。人以外でも多くの哺乳類に感染します。何らかのきっかけで日本でも再度発生するリスクが残っています。
治療はプラジカンテル40~60㎎/kg/日を分2で2日間内服します。
寄生虫コラム
寄生虫が生物の中で一番エロい!?
寄生虫は宿主に寄生したら基本安泰です。ご飯は身近にあるし、敵からは守られています。最も困るのが出会いと生殖なのです。
卵が同じ宿主で育ってしまえば寄生虫だらけになってしまい、宿主を殺してしまいます。このため、中間宿主という面倒な手段が必要になってしまいます。
また、いま寄生している宿主を通り越して別の宿主に宿るのは一苦労です。
このため、寄生虫は性の能力を最大限にしています。例えば日本海裂頭条虫は1㎝程度の各節に雄、雌の性器があり、毎日一人Hして何十万個もの卵を産み続けます。また、回虫は体の60%が性器です。雄と雌がであうと生涯抱き合って卵を産み続けながら生きていく種もあります。
なんかすごくないですか?羨ましいようなそうでないような‥(@_@;)
家にいる寄生虫、いや、寄生獣です。野生度は退化しています。可愛さに特化しており、「にゃー」となくだけでご飯がもらえます。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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